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増田信夫の「油外放浪記」

「月刊ガソリンスタンド」2022年6月号掲載

「人」と「仕組み」の
バランスが重要

今年も「魔の4月」をクリア

例年、当社のSSは4月に苦戦します。
車検は、3月需要の反動で半分以下に落ち込みます。レンタカーも春休みが終わって、新生活が始まった途端、需要がピタリと止みます。

このため4月は赤字がちでした。しかし、昨年は黒字、今年はそれ以上の黒字を計上することができました(表1)。


8店合計で、経費は前年比1,700万円増え、油外粗利が2,200万円増加しました。営業利益は500万円増の1,100万円。その主役は、伸長著しい「車販」です。

車の仕入れと販売を分業化

当社SSの自動車販売台数は、3月に初めて200台の「大台」を突破しました。
続く4月も196台と善戦です。

車販の商材は、新車と中古車に分かれます。契約方法も、販売とリースに分かれます。このうち今、当社で伸びているのは「中古車」の「販売」です。
コロナの影響で新車の納期が見通せなくなったことも、中古車販売に拍車をかけました。販売手順は、一般的な中古車店と変わりません。中古車を仕入れ、展示して販売しています。

ただし、仕入れ、架装、搬送の部門を別に設けました。これによってSSが販売に専念できるようになりました(表2)。 これもコロナが影響しています。

当社は、インバウンド需要(訪日外国人旅行客)を睨み、関東、北海道、九州の空港前にレンタカー専業店を配備してきました。それがコロナで休業を余儀なくされたのです。
一夜にして余剰人員と余剰レンタカーが生まれてしまいました。そこで彼らを集め、レンタカーの売却部門をつくりました。

次いで、この組織を、中古車の仕入れ・架装部門に再構築しました。架装センターは、成田空港前でレンタカー用に借りていた1千坪の駐車場敷地の一部を活用しています。

架装センターからSSへの搬送は外注していましたが、コスト削減とフレキシブルな対応のため、このほど、5台積載できる車両を購入しました。

これら人件費、設備費をSSが抱えてなおも利益が出せるようになるまで、1年余りの時間がかかっています。
こうして車販の手順を分業化したわけですが、結果オーライです。

売れ筋車種の分析、大量仕入れ、架装時間の短縮化、リアルタイムな在庫管理、Web掲載情報のアピール力強化が実現しました。

車販の成約率低下が気になる

車販実績が伸びていますが、実はそれ以上に問い合わせ件数が増えています。つまり、問い合わせに対する成約率は下がっています。

この問題を、2つに分けて考えます。
➊問い合わせ対応が悪く、商談に至らない。
❷商談の進め方が悪く、成約に至らない。

まずは➊問い合わせ対応です。
ここで競合店に負けるわけにはいきません。

中古車販売の場合、多くのお客様はWebサイトを見て、問い合わせてくれます。その手段は電話またはメールです。

メールに対しては、メールで回答します。メール定型文を用意し車販担当者を教育すれば、ある程度の水準を保つことができます。

問題は電話による問い合わせです。必ずしも車販担当者が受けるわけではなく、アルバイトも電話を取ります。

ためしに顧客のフリをしてSSに電話してみました。待たされる、挨拶しない、返事しない、ハキハキしない、トンチンカンな回答、たらい回し・・・ひどい有り様でした。

そこで当社は、昨年夏から電話応答研修を実施しています。誰が電話を受けても最低限の挨拶をし、用件を聞き、最適な対応が判断できるように研修しました。研修担当は、昨年本社に新設した「SSカレッジ」(3名)です。

そして定期的に抜き打ちチェック(覆面電話調査)を実施しています。半年間をかけて、ようやく競合店に負けないレベルになってきました(表3)。
しかし、それでも成約率が上がりません。...

ということは、❷車販担当者の接客行動にも問題がありそうです。調べてみました。
すると、来店受付、現車説明、商談、見積もりといった標準手順が、いつの間にか大きく崩れていました。まさにモグラ叩き。こちらの問題を解決すれば、あちらの問題が浮上します。

それが商売というものなのでしょう。あきらめず、一つひとつ潰していくしかありません。とりあえず、当社の車販担当者同士の情報共有ネットワークである「車販委員会」を通じて、この事態を強く指摘しました。
4月の成約率がやや改善したのは、そのためでしょうか(グラフ1)。

車検は「緊急事態宣言」

本稿で何度か申し上げてきましたが、昨年の秋、当社は「車検を主軸とした販売体制」に転換すると決めました。

本社とSSでプロジェクトチームをつくり、水面下で準備を進め、商品内容も見直しました(表4)。

そして、今年の1~3月の新春キャンペーンで「新車検」を一斉発売したところ、大失敗に終わってしまいました(表5)。

計画に対して521台(月間174台)のマイナス、前年比では165台(月間55台)のマイナスです。かろうじて、寒川店だけ目標を達成しました。

キャンペーンの期間中、例年のような盛り上がりがSS内に見られませんでした。「目標達成して、箱根温泉でどんちゃん騒ぎ」が例年の合言葉でしたが、今年は早々に、自粛を発表しました。これが影響したでしょうか。

手をこまねくうちに4月が過ぎ、車検実績を見て愕然としました(表1)。

なんと、前年より369台のマイナス、35%も落ち込みました。35%減収と言えば、2年前、突如コロナに襲われ、国内中がゴーストタウン化したときのレンタカー収益と同じレベルです。

幸いレンタカーの減収は一過性のもので終わり、数ヵ月で復旧しました。
しかし、今回の車検の落ち込みは、当社が打ち出した施策に対する顧客の回答です。

特に小田原東IC店、新百合ヶ丘店の落ち込みは異常です。小田原東IC店は前年比32%、新百合ヶ丘店は同60%という有り様。両店とも新規店なので、まだリピーターがないというハンデはありますが、それは昨年も同じ。

何か根本的かつ重大な問題が発生しているに違いありません。ことここに至り、静観してはいられません。早急に手を打つ必要があります。

「仕組み」だけでは不完全。「人間力」が鍵

かつて、SS業界は「L当たり油外収益」(=油外収益÷MF販売量)という指標が大きな意味を持ちました。ガソリンマージンが低下する中、それを油外販売でどれだけ補ったかを測る指標です。

給油のお客様に声かけし、ガソリン+油外で付加価値を高めることが、SS現場に強く求められました。

一般的なSSはL10円くらいでしょうか。当社のSSは、L60円、L70円と規格外の値を示します。

これは、当社が人間力に依存しない販売方法、すなわち「仕組み」で売る方法を志向してきたからです。「ガソリン収益+付加価値」ではなく、ガソリンを買わないお客様も油外商品で集客し販売しているからです。

こうした当社のやり方と、人間力重視のやり方、どちらが優れているというのではありません。経営方針による選択の違いです。総じて「仕組み」にはコストがかかり、「人間力」には時間とストレスがかかります。

ところが、SSが取り扱う商材で、仕組みだけで完結するものはほとんどありません。多くは、店に来ていただき、人が接客し、人が作業することによってお金が支払われます。

そして、今般の車検の落ち込みの原因は、「人」の部分に穴があり、それが大きく拡がっているのではないかと感じるのです。
「人」の行動には、「受動的行動」と「能動的行動」があります。
お客様から言われた仕事、お客様と約束した仕事をするのは、受動的行動です。やり方を教育しさえすれば、徹底します。SSスタッフが大好きな行動であり、やらなければクレームとなります。

一方で、給油客に声かけし、油外商品を提案するのは能動的行動です。やらなくても文句を言われません。能動的行動は、やり方を教育するだけでは足りません。高い意識とモチベーションを保つ必要があります。

当社のSSは伝統的に、能動的行動が弱点であり続けました。それもあって、「仕組み」の強化に注力してきました(表6)。

しかし、過度に「仕組み」に依存するあまり、「人間力」が極端に弱体化してしまったかもしれません。あらためて人間力復活にエネルギーを注ごうと思います。