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増田信夫の「油外放浪記」

「月刊ガソリンスタンド」2021年11月号掲載

行動しなければ売れない。
しかし行動させるのはむずかしい。

「増収減益」状態が続く

当社のSSの9月実績は、新規2店を含め全8店が2カ月連続で黒字となりました(表1)。

しかし増販基調にあった燃料油は、2カ月連続して減販(対前年比)。
このほど、緊急事態宣言がようやく全面解除されました。速やかに社会活動が正常化し、燃料油需要が復活することを願っています。

9月の燃料油の落ち込みは、油外粗利がカバーしてくれました。1.2億円の油外粗利(6店合計)は、当社では9月の月間ギネスです。
前年比1,200万円(1店当たり200万円)の増収。通常なら「あっばれ!」とスタッフたちを褒め称え、「金一封」に値するほどの改善額です。

…にもかかわらず、営業利益は前年比250万円のマイナス。油外粗利が増加し営業利益が減少する、「増収減益」というパターンが、これまた2カ月続いています。 どういうことでしょう。

理由は簡単。油外粗利が計画に満たなかったからです。
つまり計画上、9月の経費は1億800万円、油外粗利は1億3,000万円でした。
今期の期首に店長たちが立てた計画の合計値です。前年同月と比較すると、経費を1,200万円増やし、油外粗利を2,400万円増やそうという、かなり野心的な計画です。

実績は、経費はほぼ計画どおりに増額したものの、しかし、油外粗利の伸びは1,200万円止まりで、あと1,200万円足りません。かろうじて燃料油粗利が計画値を上回りましたので、営業利益の減少が250万円で済んだというわけです。

さて、どうしたものでしょうか。
1店あたり200万円も粗利を改善し、月間ギネスを更新したスタッフたちに、鞭打つのは忍びない。計画未達であることに目をつぶってしまえば、「これでいいんだ」とそのまま惰性で進むだけ。未達原因を究明しPDCAサイクルを回すことも、課題解決のためのイノベーション(行動変容)を起こすこともないでしょう。

というわけで、SSスタッフたちには油外大改善の労をねぎらいつつ、今後の評価の力点は、計画の達成率に置くと決め、発表しました。
いずれにせよ、「増収減益」状態が「常態」になってしまわないように断ち切らなければいけません。

車検の店頭販売 改善の鍵は行動量

グラフ2は、大手損保A社による車検需要の予測です。
今年度の車検需要は10月以降、前年を大きく下回るようです。

さて、当社SSの今後の油外販売は「車検に軸足を置く」と決意したことを、先月号で述べました。どこから手をつけるべきでしょうか。

当社SSの8月の車検入庫は1,134台でした(8店合計)。内訳は以下のとおりです。
(A)店頭販売が6割
(B)商圏販売が4割

当社がかつて車検販売の大改革に踏み切ったのが2013年のこと。当時、約4,000台(5店)だった年間入庫台数は、5年をかけて8,000台になりました。現在は1万2,000台(6店)です。3倍増しました。
これは主に、(B)の商圏販売を強化したことによるものです。
ホームページやミラーリングを改善強化し、さらにコールセンターを設置しました。商圏客は電話で受注しています。

一方、(A)の店頭販売は当時、ほぼ完成したと考えていました。せいぜい販売オペレーションが劣化しないよう、毎年1月に研修し、3月ないし4月までキャンペーンを実施する、その程度でとどまっていました。

当社の車検の店頭販売オペレーションは、以下の4つのステップで組み立てられています。

【MICの車検店頭販売手順】

➊ターゲット(もうすぐ車検満了する車両)が来店すると、車番認識システムがこれをスタッフに知らせます。
➋これを受け、スタッフは給油中のお客様にアプローチします。
➌店内商談コーナーに来ていただき、当社の車検の品質、実績、価格、利便性、特典などを伝えます。
➍お客様の意向を確認し、車検を予約してもらいます(車検販売)。また車検前に点検にお越しになる日を決め、必要な整備を注文していただくためのアポイント(事前点検)をとります。

まず改善すべき点は、➋です。 車番認識システムが車検対象客の来店を知らせますが、スタッフはそのうち半分(53%)しか対応していませんでした(表2)。

いつしか店頭スタッフは、「車検は天から降って湧くもの」(コールセンターが送客してくれるもの)ととらえるようになってしまったのでしょうか。

しかしこれでは、車検だけ当社を利用するお客様ばかりが増え、 日常からSSをご利用いただいているお客様との商売のパイプは太くなりません。
せめて、前回当店で車検を実施していただいたお客様(リピーター)だけでも、確実にアプローチしたい。

そう願い、ターゲットが「新規客かリピーターか」を店頭で識別できるように車番認識システムを改良しました。

すると何と、リピーターはアプローチすれば98%成約することが判明しました。分かっていたことではありますが、数字として現れると、やはりびっくりです。 リピーターは、手順➌を省略しても、アプローチすれば直ちに意思決定してくれます。
対照的に、新規客は手間をかけて説明し、説得して、やっと3割の受注率です。

まず手をつけるべきは、リピーターに対するアプローチ率の改善でしょう。現状65%。これを90%以上にするだけで、年間1,400台の入庫増が得られる計算です。 新規客に対するアプローチ率の改善、受注率の改善は、第2、第3段階です。

ちなみに車検新規客の来店数に比べてリピーターの来店数が非常に少ないのが気になります。これは、2年前の店頭販売数が少なかったのが原因の一つだと思われます。リピーターがない新規店は不利ですが、既存6店も、2年前の店頭販売をおろそかにしたツケがあるので、大差はありません。

中古車販売は在庫回転率に留意

車検に軸足を置くと決めましたが、車販を縮小するわけではありません。引き続き当社の主力商品です。

9月の車販実績は既存6店で136台、新規2店を加えると166台。油外粗利が伸びた主要因となりました。内訳を「表3」に示します。

新車販売台数は前年並みですが、中古車販売が倍増しました。車販台数全体の9割を占めます。自動車リースも、新車より中古車の方が人気が高いようです。
新車リース市場はすっかりレッドオーシャン化しましたが、中古車リースを取り扱う店はまだ少ないからでしょう。新車はメーカー保証がありますが、中古車は保証制度やアフターサービスなどを店が構築しなければならず、参入障壁がやや高いと思われます。

SSにとって中古車販売は、古くて新しい問題です。かつてはリスクのない「無在庫販売(オークションダイレクト)」がもてはやされました。しかし20年経って、芳しい結果(たとえば車販台数が月20台以上)が安定的に出ているSSの話を聞きません。
やはり、SSにおいても「現車を仕入れ、お客様に見せ、触らせ、乗ってもらって、売る」ことが、中古車販売ビジネスの王道です。

しかしそこには、在庫リスクが伴います。
中古車は現金仕入れですから、長期在庫は資金の滞留を招きます。お客様にも「売れ残り」イメージが高まり、ますます売れなくなります。
生鮮食品ほどではありませんが、中古車も在庫回転率が商売の肝です。

《在庫回転率=月間販売台数÷月末在庫台数×100》

当社は在庫回転率の目標を65%と定めています(グラフ1)。
2カ月以上売れない車は、オートオークション(AA)に出品処分するか、レンタカーにします。

自動車保険も行動量

来るべき脱炭素時代。
元売会社もSS業界も、血眼になって新たなビジネスチャンスを探しています。当社も例外ではありませんが、その一方で、現在の取扱商品のうち、炭素燃料が電気や水素に代わったとしても、需要があまり変わらないものは何か見定めています。

その一つが自動車保険でしょう。
自動車保険に対しては、当社(私)は昔から苦手意識があるのですが、そうも言ってられません。
ロイヤルカスタマー(生涯顧客)づくりには不可欠な商品なので、当社は3年前に専任チームを作り、10年間で保険契約1万件(月間100件)を目指しました。 ところが現実は、3年経ってようやく2,000件。目標の半分のペースです。 いろいろ試してみました。車検のお客様に保険証券を持ってきてもらい、見積もりを作成して提示してみましたが、依然として結果が出ていません。

「車を買うタイミングが保険販売の絶好のチャンス」とも教わりました。当社のSSも車販台数がやっと月間20台/店レベルを維持するようになってきたので、保険を提案するようにと車販担当者たちに言い聞かせています。
保険販売員資格も全員に取得させました。スキル習得のために、研修したり個人レッスンしたり、多くの時間を割いてきました。

しかし、いまだ活動にムラがあります。車販客への平均付保率は現状で3割くらいです。販売方法や手順が悪いわけではありません。保険会社や他の自動車販売店の話を聞いても、当社のやり方と大きな違いは見当たりません。

となれば、考えられるのは、当社スタッフの販売行動そのものの不徹底です。
車が売れてホッとしてしまい、保険の話まで気が回らない、手が回らないのが実態です。いろんな言い訳をしますが、要は、お客様の顔色をうかがいながら保険を提案したり、しなかったりしています。

「ちゃんとやれ」と言い続けてきましたが、このまま車販担当者の「やる気」だけに保険販売を委ねていては、「百年河清(ひゃくねんかせい)を待つ」ことになりかねません。
ムラなく安定的に保険が売れる方法はないものでしょうか。

社内を見回してみました。
本社には、SSが契約した保険の事務を担当するパート女性が2人います。彼女たちが電話で保険をすすめてみたらどうだろう。電話の「質」はともかく、オフィス勤務なので、車を売ったお客様全員(100%)に電話することはできそうです。
さっそく彼女たちに打診してみたところ、予想どおり猛反発されました。

それも当然です。事務職として採用した2人です。セールス経験、接客経験、電話のスキル、もちろん保険販売の知識も皆無です(表4)。

「あくまで実験です。結果は問いません。ダメモトでやってみてほしい」と強引に頼み込み、渋々ながら了解してもらいました。実は最も難航したのが、この部分です。

目からウロコの保険販売

7月からやってみました。
あらかじめSSの車販担当者がお客様と日時を約束します。その時間になったら本社事務スタッフは事務作業の手を止め、お客様に電話します。そして、台本(スクリプト)どおりに喋ってもらいます。
そばで聞いてて耳を塞ぎたくなるような「棒読み」です。
それでもお客様に保険内容を伝え、了解が得られれば、見積もり書や契約書などを郵送します。

その結果が「表5」です。
驚くことに、7割のお客様が保険加入してくださいました。

「瓢箪(ひょうたん)から駒」とはこのことです。
なるほど、車を購入したお客様は、ちゃんと「聞く耳」を持ち聞いてくれます。たどたどしい電話ですが、約15分間、しっかり聞いてくださり、こちらからの質問にも答えてくれます。今のところ「何だそのやる気のない喋りは!上司を出せ!」というお叱りもありません。

必ずしもセールス慣れした口調である必要はないのかもしれません。というよりむしろ、電話口から感じられる愚直さ、正直さが評価されたように感じます。 まだやり始めたばかりで、性急な判断はできませんが、保険販売に一つの光明が見えました。